フランスを中心にイギリス、カナダ、ドイツ、アメリカの行き過ぎたスポーツエリートの養成の現状についてスポーツ精神科医、スポーツ整形外科医などの実例なども交えて、現在問題を抱える当事者達が語るドキュメンタリー。
この番組をたまたま途中から見て釘付けになってしまった。
エリート教育の抱える病み(闇)の奥深さは国を跨いでも同じという現状を浮き彫りにしていてとても興味深かった。
低身長問題、怪我の問題、指導者によるハラスメントの問題等の2時間くらいのフランスでの番組。
私が見た最初の実際にエリート教育で悩んでいる子はフランス人の17、8歳の女の子。体操をやっていて身長が152cm、体重が40kg。その子のお母さんも出ていたけど、お母さんの身長は彼女より15cm近くは高く見えた。
彼女の手足はボロボロで過度なストレスの中で毎日を戦っている。それでもコーチからの過度な指導がやがてハラスメントに変わり…
結局現在は食事制限も行いながら、別のクラブに移籍して体操を続けているという。(以前のクラブとは裁判も行っていたよう。)
彼女の手足の写真がドーンと画面に映し出された時はかなりの酷さで目を背けてしまった。
また、同じく体操をやっていて大人になった今プロレスラーとして活躍しているイギリスの女性は、今でも体操選手時代のトラウマで悩まされているという。
そして、ドイツのまだ11歳の女の子は週のほとんどを3時間かけてロシア人コーチのいるリンクに通い詰め、練習しているけど、何度も何度もジャンプや回転で転ぶ悪夢を見るから睡眠が足りていないと訴えていた。
そこにスポーツのエリート教育の危険性が孕み、心理学的に問題点が多いという事を精神科医の先生が語っていた。
体操、アーティスティックスイミング、フィギュアスケートなど子供がその素質を認められて選出されるとイデオロギーの前段階で親は自慢に思い、次第に子供に対しての期待が大きく膨らんで過度なトレーニングを親自体も課してしまいがちという。
また、日本でも有名な1976年のオリンピックで3個の金メダルを獲得したナディア・コマネチの成功例が出ていたけれど、彼女の成功が元で冷戦化の西ヨーロッパで東ヨーロッパのスポーツエリート教育が取り入れられるようになった。
カナダのアーティスティックスイミングの元選手は選手時代の6回の度重なる脳震盪により現役を引退して1児の母となった今、視力低下やフラつき、頻繁に起こる偏頭痛に悩まされているという。
また親の思い入れが強すぎるカナダのバスケット少年が出てきたけれど、0歳でおもちゃのボール入れにボールを入れ始め、その後過度なトレーニングが原因で片腕の肘、両足の軟骨の手術をし、10代後半にしてすでに現在はメタルが入っているという。

もっと若く。
もっと早く。
No pain no gain
テレビで語られてたこの言葉が印象的だった。
アトランタ五輪、体操選手ケリー・ストラグ選手の怪我についてもかなり言及されていて、足首がすでにボロボロの状態であったにも関わらずアメリカを優勝に導くために出場。
その結果、そのオリンピック、18歳で現役引退を余儀なくされたがその後、学校教師を務め、ホワイトハウス大統領学生通信局のスタッフアシスタント。
また、財務省法務顧問に就任し、2005年3月には大統領任命により司法省少年司法・非行防止局のスタッフに加わったをするなどして、現在は2児のお母さんとして生活してる。
ただ、このドキュメンタリーでは低身長の事も盛んに取り上げられており、彼女の141cmという身長についてもアスリートの現実や子供達の体の負担がスポーツ専門医師により語られていた。
そして番組の後半にはスカイ・ブラウン(日本人とのハーフでスケボーもう一つの競技の選手)の怪我が彼女のyoutube動画から生々しい怪我の瞬間のや病院のベッドで横たわりながら「私は大丈夫。」と話す様子などが映し出され子供への行き過ぎたアスリート教育と問題点が様々なスポーツ、国を跨いで考えなくてはいけない問題だということを改めて実感した。
このテレビ番組を見ながら若い頃に柔道をやっていたフランス人夫にも話を聞いてみたら、その道場が「コブラ会」だった…。
試合に勝つことが絶対で、負けたら罰則(90kgの体重の先生が負けた生徒のお腹の上を何往復か歩くとか、しゃがんで道場一周で歩くとか)。
どんな手を使ってでも勝て!という指導。
夫自身も鎖骨を骨折したこともあるけれど、逆に相手の腕を折ったこともあると言っていた。
私自身は柔道は見たことはあるけれど、やった事はないからフランスでもそんな過酷な世界なのだ…とただただ、びっくりするばかりだった。
ここでは全くバレエの事は触れられてなかったけど(バレエはスポーツではなく芸術だからまた話が別らしい)、バレエの中でも筋肉のつけ過ぎで低身長の危険性がある。
もちろんハラスメントもあるし、再起不能な怪我もある。
体操選手は小柄な方が動きに有利なのかもしれないけれど、バレエの場合は背が高い方が有利に働く。
低身長だとバレエダンサーとしての海外バレエ団入団希望の場合、制限があることもある。
なぜならヨーロッパの有名バレエ団の多くが身長150cm前後のダンサーを採用しているのをまだ確認したことがないから。
女子なら、最低でも160cm前後は必要だと思う。
ロイヤルは昨今色んな人種、身長も様々(とは言え小柄に見えるフランチェスカ・ヘイワードでも157cmある)だけど、パリ・オペラ座バレエやマリンスキー、ボリショイなどで低身長の人は見たことがない。
以前にも指摘したけれど、これから新しく設けられるygp japanの低年齢用の部門が今後どのような形で日本の若い未来のダンサー形成に影響を及ぼしていくか、考察していかないとならない問題だと思う。
低年齢でバレエコンクールに入賞することが必ずしもその子の未来を明るくする結果になるとは思えない。
むしろヨーロッパのバレエ学校のようにゆっくり育てて、ある程度の筋肉が整ってから色々なテクニックを強化していく方が効率的ではないかと思う。
日本のような低年齢でのコンクール熱はヨーロッパ、少なくともフランスには存在しない。
それは長年の経験から多くの先生達が学んでいるからに違いないし、文化の違いもある。
筋肉のつけ過ぎによる低身長が及ぼす子供の未来への影響やハラスメントによるトラウマで精神にきたす影響を考える必要はバレエにおいても大いにある。
この番組の最後は世界ユネスコの子供の権利の委員会の人たちがどうやってアスリートを目指す子供の権利を守っていくかを議論するかが語られていたけれど、日本の子供の権利はどのようにして守られているのだろうと興味を持った。
(この世界ユネスコ「子供の権利委員会」に日本は参加していたのかも分からないけれど。)
私はこのテレビ番組で出てくるようなスポーツの世界には疎いけれど、日本のバレエ界にも似たような子供を追い詰めている現状がある。
それを避けるためにはバレエの先生達が何が子供達の未来にとっての良し悪しを熟考していく必要があると思う。
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