子供にバレエをやらせていると、結局ママと子供、どっちがバレエを習ってるのか、どっちが本気なのかわからなくなる時がある。
私が子供だった時から「ステージママ」というのは存在していてそういうママは常に子供につきっきりだった。レッスンも毎回ではないものの、結構な確率で観にくるし、こうした方がいいとか、ああした方がいいとか、いろんな口出しをしてくる。
特に発表会ともなるとステージママが張り切って取り仕切る。
文字通り、お母さんにとっての生き甲斐。
そういうお母さんがいてくれると他の子供達としても、先生が忙しい時に、
「誰々ちゃんのママに聞けば分かるよ!」
って助かるけど、他のママ達と対等な関係を築くのが難しいだろうなぁと幼心にいつも思ってた。
バレエをやりたいのは子供なのか、ママなのか…
私の母はというと、私自身は反抗期がかなり強かったから、母が発表会で楽屋に来る事を拒んだ。結果、困る事もあったけれど、母は基本、発表会を観に来るお客さんの一人か、「母の会」で決められた当日の仕事を担当する一人だった。
バレエの先生を始めてからも「先生のママ」として、側にいられるのは絶対嫌だったので子供が生まれてバレエを習うようになってから、母には”子供達のおばあちゃん”を徹底してもらってた。
だから、孫の世話をする一人の祖母としてバレエのお母さん達と仲良かった。
だから、バレエの事は本当に知らない。下手か上手か、キレイかそうでないかはもちろん分かるけど。
私は母がそれで良かったと思ってる。ステージママでいつもとやかく口うるさく言われていたら私の性格上、きっとバレエはとうの昔に辞めていたと思う。
でも…
私が子供の時にいた強烈なステージママがいなかったら私のバレエの先生としての人生はなかった。
だから、その友人のお母さんにものすごく感謝してる。
そのお母さんがバレエを辞めていた私に再びバレエの道をくれて、先生としてのポジションを再び与えてくれた。
自分の娘のバレエ教室の手伝いをしてって言ってくれた事で、2度とバレエをしない!と思っていた私の心を動かした。
2年ぶりのバレエ。
子供達の笑顔が可愛らしくて、最高に幸せな一日だった。
次の日は筋肉痛で歩くのが辛かったけど、「私の居場所はやっぱりここだ!」って思えた瞬間だった。
その後も、数年に渡って娘さん同様に可愛がってくれた。
ご飯を作るのが美味かったそのお母さんは、夕飯のおかずをわざわざ多めに作って分けてくれたりした。
美味しいレストランにもしょっちゅう連れて行ってくれた。
娘さんのスタジオの発表会では衣装を全てそのお母さんが手作りし、生徒達のお母さんとの話し合いは全て先生である私の友達ではなく、そのお母さんがやっていた。
私の友人は先生として教える事と、発表会で見本として踊ることを主としていた。
彼女が踊るのは彼女のお母さんの願望でもあったから。
友人のバレエ教室なのか、彼女のお母さんのバレエ教室なのか…どちらの「夢」だったのか、そばで見ていて分からなくなる時もあった。
それから数年後、私が独立して自分のバレエ教室を建てた後、私の友達は体調崩してバレエ教室を畳んでしまった。
しばらくしてたくさんいた生徒さんのうち何人かが、遠い私の稽古場まで来てくれるようになった。
最初、私の友人のバレエ教室に体験レッスンとして来た時に幼稚園生だった子のうちの一人は現在、もう20代半ば!
彼女は大学生だった数年前まで私の教室の発表会に出てくれて皆をリードしてくれた。
縁が繋がって今の私がある。
感謝しても仕切れないほどの縁が繋がって私がバレエの先生として生きて来れたこと、今こうやって私の友人のお母さんのことを思い出しながら書いている。
クロード・ベッシー元校長ばりに毒舌だったそのお母さんだけど、
今はどこにいるのか分からない。
きっと、日本のどこかにはいるけれど、引っ越した先が分からない。
私の友人もその後、どうなったのか分からない。
バレエ一筋で、イギリスに留学して首席で卒業したはずの彼女が私の知らない場所でバレエの道を続けていたのか、否か…
今となっては「バレエ」は彼女がやりたかったものなのか、その子のお母さんがやりたかったものなのか分からない。
へなちょこだった私が勝手にライバル意識を持って、彼女に追いついて抜かせるよう頑張った子供時代。
私の友人がいなかったら…
「ライバル」である彼女がいなかったら…
バレエは私の中で今のようなものではなかった。
子供の人生を左右する母娘の関係はとても難しい。
その母娘は一卵性親子と周りから言われるくらいずっと一緒だったから。
我が子がバレエを踊ってる姿を見たい。親として純粋に思う気持ちと行き過ぎとその境目が、見定めが難しい。
私のバレエ人生を変えてくれたその親子にまた会いたい。
今、改めて感謝の気持ちが込み上げてくる。
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